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次世代の薬剤師たち

「終末期医療の本来のあり方は闘いではない。よりよく生きるためのサポートだ」

株式会社フロンティアファーマシーにて執行役員・社長室 室長を務める前田 桂吾さん

幼い頃の闘病体験から、医療の世界を志した

小児科担当になって、子どもたちの医療に携わりたい――それが、薬剤師・前田桂吾氏の原点にあった想いだった。

前田氏は現在、株式会社フロンティアファーマシーの執行役員を務めると同時に、薬剤師として現場にたち、在宅医療に従事している。そのキャリアの一歩は、「小児科の医師」を目指すところからはじまっていた。

「実は私自身、子どもの頃に大病を患い、入退院を繰り返していたんです。だから、いつか自分もお医者さんになり、自分と同じような想いをしている子どもたちに『大丈夫だよ』と言ってあげたい。ずっとそう思っていました」

しかし、ちょうど前田氏が大学へ進学する頃、日本にも「臨床薬学」の考え方が浸透しはじめる。前田氏は「これからは、薬剤師も患者さんのベッドサイドで仕事ができるんだ」と大きな可能性を感じ、病院薬剤師になる道を選んだ。

そして国家試験に合格した後、さまざまな人を介して不思議な縁がつながる。かつて自ら長期入院していた病院の薬剤部長からの紹介で、とある病院で働くことになったのだ。そして、その病院でちょうど新たに設立されたのが「緩和ケア」のための病棟だった。

当時はまだ、そうした専門の病棟があること自体が珍しかった。そこで緩和ケアの現場に立った前田氏は、一般病棟との違いを肌で感じ、衝撃を受けたのだという。

「緩和ケア病棟に入ってくる患者さんは、ご自分の死を現実のものとして受入れている方たちなんです。だから携わる私たちも、一人ひとりの患者さんと向き合い、残された時間をどう支えるか真剣に考えていました。本当に濃密な時間で、緩和ケアの重要性を実感しましたね」

この病棟での経験が、前田氏のその後のキャリア形成に大きな影響を与えることになった。

「最期は自宅で過ごしたい」重篤患者の願いを叶えるために

病院で働くうち、前田氏はある漠然とした疑問を感じるようになったという。

今から15年ほど前、当時からすでに医療費が高騰しており、コストが問題視されはじめていた。その影響で遠くない未来、治療できない末期がんの人は病院にいられない時代がくると予測されていた。

「がんとの向き合い方も、時代とともに変化しているのを感じていました。最期まで徹底的に治療して闘い、力つきて病院で亡くなるケースが多かったのですが、必ずしもそれがすべてではない、と」

治療をやめ、痛みだけを取り除くことで残された時間を自宅で有意義に過ごす――そうした最期を迎えることを望む患者も増えていた。

しかしそうした願いを実現するには、大きなハードルがあったのだ。

「末期がん患者の方が自宅で過ごすためには、がんの痛みを緩和する医療用麻薬などを取り扱う薬局と、知識ある薬剤師の存在が必要になります。しかし現実問題として、地域の中にそんな薬局はなかなかありませんでした。最期を自宅で過ごしたいという願いすら叶えられない、現状の薬局システムにもどかしさを感じていたんです」

薬剤師として、緩和ケアの現場に携わったからこそ見えてきた課題。それを在宅で実現するためには、どうすればいいのか。

そう考えた前田氏は、12年間勤めた病院を離れる決意をする。在宅医療に取り組もうとしていた薬局、フロンティアファーマシーに移ることにしたのだ。

在宅医療の目的は「治療」ではなく「生活をサポートすること」

薬剤師として、在宅の仕事に従事するようになった前田氏。当初は病院の仕事とそこまで変わらない印象を抱いたというが、少しずつ病院と在宅医療の違いに気づきはじめた。

「病院は、あくまでも『病気を治療するための場所』なんですよね。治すためには医師の指示に従って、生活を我慢してください、というスタンスです。でも在宅は違います。患者さんの生活の中に、私たち医療者が入っていかなければならないんです」

在宅では、「こちらの指示に従ってください」というスタイルは通用しない。あくまでも「その人がどういう時間を過ごしていきたいのか」を聞いたうえで、医療ができることを提案し、調整していく。患者一人ひとりの生活、時間の流れの中に、いかに医療を溶け込ませていくかが重要になるのだという。

「医療者としては、例えば食事制限やタバコの制限など、“医療的な正解”を伝えたくなります。でも在宅の場合、それが必ずしも患者さんのニーズと合うとは限らないんですよね。人生の時間を、その人がどう使おうと自由なわけですから」

在宅での緩和ケアは、「治す」ことが目的ではない。危険なものにはもちろん配慮しつつ、患者がよりよく生きられるためにサポートする。それが自分たちの役割なのだと、前田氏は話す。

「医療とはそもそも、人智や技術で治せるものは治す。でも治せないとわかったら、もとの生活にできるだけ近づけるように生活を支えていく、というものなのではないかと思います。それがいつしか医療が“サービス”になり、医療を施さないと責任問題になるとか、病気も人間の力でなんとかコントロールできるのではないかとか、おかしな方向に進んでしまったのだと」

「治療」を前提に考えてしまえば、そこには確かにリスクもある。実際、病院側にそうした考えを受入れてもらえず、ときにはぶつかることもあるそうだ。しかし前田氏は、在宅でさまざまな患者と接し、その最期の生き様に触れるうち、医療従事者としてあるべき姿を改めて考えるようになったという。

「私たちは医療に携わる者として、“病気を治すこと”を前提にさまざまなことを考えてきました。でも治療のために、生活をないがしろにしては意味がないと思うんです。それを教えてくれたのは他でもない、私自身が在宅で接してきた患者さんたちでした。」

「おそらく私だけではなく、病院から在宅に移ってきた医師や薬剤師は、“治療の後に広がっている世界”の存在に気づいて、今の仕事に取り組んでいるのではないでしょうか」

従来の価値観を転換させ、地域全体で仕組みづくりが必要

前田氏が目指す、「生活を支える」というスタンスの在宅医療。それを実現するためには、現状どんな課題があるのだろうか。

これからはがん患者だけに限らず、在宅で最期を迎える高齢者も増えていくと予測される。しかしこれまで、慢性疾患の処方箋のみを取り扱ってきた小規模な薬局などでは、そうした変化に対応することが難しいのが現状だ。

「今の状況でいくら在宅を推進しても、現場が疲弊して成り立たなくなってしまうでしょう。だからこそ、地域の病院や薬局を含めた連携が必要になります」

慢性疾患の患者に加え、今後どんどん増加する在宅医療の患者を、どれだけ地域の医師と薬局が協力してカバーしていけるか。今後の仕組みづくりにおいて、前田氏はそれが最大のポイントになると考えている。

「これまでの医療では、あくまでも医療的な側面からしか患者さんと向き合っていませんでした。でも今後は私たちも、一人ひとりの生活、価値観、ナラティブ(物語)などをひも解く意識を持たなければなりません。そうした視点がなければ、患者さんの生活を支えることはできません」

高齢化が進み、治療の難しい病気が増えている今だからこそ、従来の価値観を逆転させなければならない――前田氏はそう考えているそうだ。

医療に携わる人間として「与える人」になれるか?

最後に、これから求められる薬剤師のあり方について聞いた。

「Giver(与える人)であること」。前田氏はそれが、医療現場で働くために必要なことだと考えているそうだ。

「在宅を必要とする患者さんの中には、貧困に直面している方だったり、社会的弱者といわれる方たちも多いんです。私たちはそうした人たちの生活を第一に考えるべきなのに、自分たちにとってリスクだから安い薬を使わないとか、そういう目線になってしまってはダメですよね」

決められたこと、医療的に正しいことをそのまま提供すれば、決まった収入を得られる。自分たちのリスクになるようなことは、どこかで切り捨ててしまう。そうした医療のあり方では、本当の意味で患者を支えられなくなっている。

「これからの時代は、薬剤師も患者さんたちと対話を重ね、相手の価値観を丁寧にくみとることが重要だと思います。さらにリスクとメリット、デメリットも踏まえたうえで、自分たちが、その人の生活をどう支えられるかを考えること。近い将来、そうしたあり方に変わっていくのではないでしょうか」

Profile

前田 桂吾(Keigo Maeda)

薬剤師。大学卒業後、病院薬剤師として緩和ケアに12年間携わる。その経験を活かし、在宅医療の世界に転身。現在、株式会社フロンティアファーマシーにて執行役員・社長室 室長を務める。

カテゴリの記事一覧

自分の街に、本当に貢献できる薬剤師を目指して

患者さん一人ひとりとのつながりを大切に、必要とされる理想の薬剤師を目指す

薬剤師として、いま医療の現場に足りない仕組みを積極的に構築していきたい

これからの地域医療を見据え、いま薬剤師がすべきことに、しっかりと取り組む

「薬剤師である前に一人の“支援者”として、患者さんと向き合っていく」

「終末期医療の本来のあり方は闘いではない。よりよく生きるためのサポートだ」

入社3年目で、在宅業務を一手に引き受ける女性薬剤師の奮闘

「在宅は簡単ではない。だからこそ、柔軟な若手薬剤師の力が必要」