テキストを読む時によくやるのがマーカーを引くことや読んで理解したつもりになることです。
マーカーを引くことは、テキストの本文中の大事な箇所をチェックするという意味では確かに良い方法です。しかし、それだけで満足してしまうので、脳における覚えようとする意識が弱くなってしまいます。読んで理解しただけでは、まだ問題を解くのに必要な知識を使えるに至っていない状態です。
テキストを読んだのに、覚えていない・・・!
原因としてあげられるのは、
➀大枠の流れを掴めていない
➁いきなり細かいところ覚えようとする
➂どこを覚えれば良いか分からない
➃他の分野との繋がりが見えてこない
➄問題を解くに当たって必要な知識の整理ができていない
マーカーを引くことも読んで理解するということも、大事だと思われる場所をもう一度見やすくすることを前提としたチェックです。つまりそれだけでは勉強として十分ではありません。
・勉強は反復が大事
・繰り返し復習して覚えよう
ということはよく言われていることです。
実際に「反復」や「復習」は間違いない勉強方法なので安心してください。1回だけで覚えられたら、おそらく天才です。
ではどのようにテキストを反復して読み進めば良いかを解説していきます。
例えば、生物分野における栄養素の代謝経路について考えてみます。
青本生物3(薬剤師国家試験対策参考書 青本 生物3 (著)薬学ゼミナール)において【代謝経路とATPの産生】という章についてです。代謝、つまり生体内のエネルギー産生を考える上で重要な反応が細かく解説されています。この分野は多くの人が苦手としていて、繋がっていません。
大切なことは、大枠の世界観を捉えてから必要な部分を細かく把握していくことです。
まず「ATP」の産生についてです。
ATPは生体内における最も大切なエネルギー物質です。高校生物を履修した方は「細胞小器官の中でエネルギー産生に関わる場所はミトコンドリア」と学んだことがあると思います。
糖質(グルコース)の代謝を考えます。まずテキストで出てくるのは、「解糖系」というシステムです。しかしここでいきなり解糖系を学ぶぞ!と意気込んで細かい反応や酵素を見ていくことは避けてください。このシステムがどういう位置づけで何を示しているのかを理解できなくなります。目的はあくまで、グルコースを代謝して「ATP」を産生することです。
どこでそれを行っているのでしょうか?
読み進めていくと「2つのシャトル」「ピルビン酸の酸化的脱炭酸反応」「クエン酸回路(TCA回路)」「電子伝達系(酸化的リン酸化)」の記載があります。
これらのシステムが上手く繋がって、ATPを産生していることが想像できます。主にどこでATPを作っているのでしょうか?それは最後の電子伝達系(酸化的リン酸化)の部分です。
ここまで大枠を把握出来たら、どう繋がっているのかを見ていきましょう。
再度確認をしますが、グルコースを代謝してATPを産生するまでの流れを把握していきます。
グルコースは糖質です。糖を解く反応機構ということで「解糖系」により、ピルビン酸まで進めます。
先ほど「ピルビン酸の~」という場所がありましたが、結果だけみるとピルビン酸からアセチルCoAが生成されています。その流れで「クエン酸回路」を見てみると「アセチルCoA」と記載があり、反応が進んでいきます。
そこで産生されたNADHやFADH2が最後の「電子伝達系」へ進んでいきます。電子伝達系では最終的にATPシンターゼ複合体を通過することでATPが産生されます。
99回 問115
ここには、ミトコンドリアとその一部を拡大した模式図が示されています。
敢えて先ほどの解説では、どこでどの反応が行われているのか場所の説明はしていませんでしたが、ここで説明します。生体内において血糖値を下げるホルモンはインスリンしかありません。インスリンは、血中からグルコースをGLUT4経由で細胞内に取り込ませることで代謝を進めて行きます。
つまり取り込まれたグルコースは
細胞質に存在する「解糖系」
⇒ミトコンドリア内マトリックスに存在する「クエン酸回路(TCA回路)」
⇒ミトコンドリア内内膜に存在する「電子伝達系」の流れを経て代謝されATPが産生されます。
ここまでの知識では、大枠のみの理解です。
問115を解くためには、より詳細な把握が必要になります。つまり先ほどまでの大枠の理解だけでなく、酵素の所在や、反応場所についての理解が必要になります。
このときただテキストを読んでいくのではなく・・・
例えば
・プロトン濃度勾配とは?
・酸化的リン酸化とは?
・基質レベルのリン酸化とは?
・TCA回路・電子伝達系の酵素の所在は?
といったように自分なりにクイズを設定し、考えてみましょう。
分からない時は調べますが「納得した気になる」のではなく、きちんと想起できるように繰り返し脳内でイメージしてみましょう。そうすれば次に同じ問題が来たときにも、意味を理解できているので応用を利かせて考えることができるはずです。
例えば、糖尿病用薬でメトホルミンという医薬品があります。
メトホルミンはAMPキナーゼを活性化させ、糖質の利用を促進する作用があります。いわゆる運動させるような状態にします。代謝を促進させるため、グルコースから「解糖系」を経たATP産生に動きます。
しかしメトホルミンで強制的に糖の利用を促進させるため、細胞内の酸素条件が徐々に好気的条件⇒嫌気的条件となっていきます。
嫌気的条件では、解糖系により生成したピルビン酸はクエン酸回路(TCA回路)に入らず、乳酸が生成します。乳酸が蓄積していくと、乳酸アシドーシスとなり、吐き気や下痢症状などの副作用が起こる可能性があります。
このように、これまでのコラムで紹介した、科目横断的な考え方による生物分野から薬理への繋がりが見えてきます。さらに、グルコースの代謝ということから、『解糖系』『メトホルミン』『乳酸アシドーシス』がチャンク化して把握できるといった感覚になります。
テキストを読むことは大事な場所を抜き出してチェックし、最終的に定着させることです。
「マーカーを引く」という行為が重要なのではなく、まずは先ほどの例にあったように大事そうな単語を抜き出す練習をしていきましょう。次に「つまり」「したがって」「それゆえに」などの接続詞をポイントに結論を見つけていく訓練をしましょう。
すると、徐々にページ全体の流れが掴めてくるはずです。
テキストの読み方一つとっても、知識・記憶を定着させるような工夫が必要になります。ただ繰り返し読むのではなく、どう自分の中にインプットしていくか、それを日々の勉強で考えていきましょう。
<執筆者プロフィール>
滝本大輔(Daisuke Takimoto)
薬剤師歴4年/国家試験・定期テスト指導歴9年
大手チェーン薬局に現役薬剤師として勤務しながら、個人の性格や理解に合わせた超オーダーメイドの学習指導を行っている。現在は心理学を応用した指導方法に注力しており、学習だけではない細やかな気配りや人柄も人気である。