病院で行われる医療行為はとても幅広いため、当然、私たち薬剤師が関わる範囲も多岐にわたります。診療科の内容や種類もそうですし、取り扱う薬剤の品目数もそう。また仕事の中で連携していく他の医療関係者の数も、薬局と比べると圧倒的に多くなります。重篤患者など、病院でないと関わることのできない患者さん、医療関係者もいます。
ただそれは決して、薬局薬剤師の業務範囲が狭いというわけではありません。薬局の場合は薬剤師自身が窓口となるため、一人ひとりの患者さんと向き合うときの密度は自然と濃くなります。そうした立ち位置、患者さんとの関わり方に違いがありますね。
100~200床程度の中小規模の病院では、大手と違い一人の薬剤師がカバーしなければならない仕事の範囲も広がります。そのため、短期間の間にさまざまなことを経験し、若いうちに薬剤師業務の全体像を把握することができるでしょう。
それに対して大規模な大学病院などでは、関わる人数が多い分、複数の業務をローテーションするまでに何年もかかる傾向があります。ただし、より高度な最先端の医療や、臨床試験などに触れるチャンスがあるのは大きな病院の特徴です。このようにどちらがいい、悪いということではなく、それぞれの環境に傾向や特性があることを理解してほしいと思います。
かつての病院薬剤師は基本的に薬剤部の中にいて、調剤や製剤の仕事を中心に行っていました。しかし現在は、それだけではなく病棟や外来へと積極的に関わっていくことが求められています。診療報酬改定によって、各病棟や救命救急、ICUなどへ薬剤師を配置することが評価されるようになった影響も大きいですね。
以前と比べると、薬剤師の増員を必要とする病院は増えているでしょう。また病棟や外来などでも薬剤師が活躍することで、薬剤師の役割に対する評価が高まっているケースもあります。
例えば、がん治療の現場などで顕著ですね。がんの薬物治療には多くの副作用がありますが、医師一人でそれらにすべて対応するのはとても難しいことです。そのため医師にとって、きちんとした薬の専門知識を持った薬剤師は重要な存在になるのです。このように、薬剤師が調剤室の外に出て専門性を発揮することによって、他の医療関係者から評価される機会が生まれているといえるでしょう。
そうですね。薬剤師も「がん専門」「精神科専門」など、自分自身の専門領域を見つけ、特化していく流れが出てきています。日本病院薬剤会でも認定制度を設けていますが、学会で、専門薬剤師などの認定制度を設けるところも増えていますね。
薬剤師として専門分野を持つには、何よりも継続性が大切になります。将来どんな薬剤師になりたいかをしっかり考えたうえで、病院のカンファレンスや研修の機会を最大限活かし、学び続けてほしいと思います。薬剤師のみなさんをサポートするために、私たち日本病院薬剤師会でも、さまざまな研修を提供しています。
病院は一般の企業と異なり、専門の採用担当部署があるわけでもなく、広報・PRに予算を十分使えるわけでもありません。そのため薬局と比べると、圧倒的に情報量が足りていないのは事実です。しかしだからといって、病院が薬剤師を求めていないわけではありません。むしろ薬剤師の増員を考えている病院は多いのです。
まずは、身近なところで考えてみてください。薬学生なら全員が必ずどこかの病院に実習に行きますよね。そこで私は周囲の友人や担当の教員から、実習先の病院について情報を得たり、紹介してもらったりすることをすすめています。
また自分が興味のある病院があるのなら、「病院薬剤師志望なのですが、一度お話を聞かせてもらえませんか?」と、電話などで直接コンタクトを取ってみるのもいいでしょう。なかには、問い合わせた病院でたまたま人材を募集しており、見学に行っただけで就職が決まった……という例もあります。
もちろん、すべての病院で対応してもらえるとは限りません。しかし情報発信がなかなかできず、人材を集めるのに苦慮している病院もあります。そうしたところであれば、学生からの積極的なアプローチを歓迎してくれるでしょう。
医療現場での薬剤師に対する評価は、当たり前ですが、その病院で薬剤師が本来の職能を発揮できるかどうかで決まります。それを左右するのは、薬剤部の姿勢や方針です。そのため薬剤部の人と話をするときは、今現在どんな仕事をしているかに加え、自分たちの役割についてどんな考え方を持っているのか、将来に向けてどんなビジョンを描いているのかを聞いてみてください。チーム医療に積極的に参画しており、「こういうことをしていきたいから、一緒にやりましょう」と前向きな言葉をかけてくれるような病院なら、チャンスも大きいと思いますね。
薬剤師として経験を積みたいと考える人にとって、「病院薬剤師」は魅力的なポジションのひとつだと思います。さらに病院を訪れるさまざまな患者さんのために薬剤師ができること、果たせる役割は、今どんどん広がっています。
それらに対して、自分にできることを主体的に考え、ぜひアクティブに、前のめりに活動できる薬剤師になってください。私たち薬剤師が積極的に医療現場へと関わっていくことで、薬剤師の評価が高まると同時に、患者さんによりよい医療を提供することにもつながっていくのですから。