そうですね。この田園調布店は、もともと地域密着型の店舗として在宅に取り組むことを目的にスタートしました。特定医療機関の外来を中心にするのではなく、このエリアにお住まいの方々に利用していただくことを想定しています。
5年前と今は、もう状況が全然違いますね。例えば2016年4月の診療報酬改定で、薬剤師がすべての老人ホームなどの施設へ訪問する場合に、保険の点数がつくようになりました。看護師がいるような施設では、これまで調剤の点数しかつかなかったんです。
これまでは施設側も、薬剤師ではなく看護師さえいればいいという考えが主流でした。訪問薬剤師を呼ぶと、薬代以上の費用がかかってしまいますから。しかし最近では、入居者の方によりよい環境を提供するために、薬剤師が必要とされるケースが増えています。
田園調布店で最初に訪問をはじめた施設では、担当の医師の先生から「薬剤師さんもうちの医療チームに入ってください」と声をかけていただきました。患者さんがより安心して医療サービスを受けられるような環境をつくるために、施設の方から入居者のみなさんへ「お薬のことは薬剤師さんが見てくれます」と紹介してもらっています。
有料老人ホームでは、こうしたサービスを行なうために、薬剤師が医療チームに入るケースがますます増えていくと思います。
基本的には変わりません。施設でも結局、患者さん一人ひとりに提供するサービスは異なります。患者さんがどこで暮らしているかという違いだけで、在宅とほぼ同じですね。患者さんのお住まいへ個別に訪問して行なう、訪問薬剤管理指導と同じように対応しています。
会社の方針で、管理薬剤師は全員資格を取ることになっているんです。やはり、在宅の現場について一番よくわかっているのはケアマネージャーさんですから。田園調布店にはありませんが、他の店舗では、「介護支援事業所」を併設しているところもあります。
現場で介護職の方と深く連携するためにも、相手の方がどういう仕事をしているのか、どんな立場で発言しているのかを知ることが大切なんです。会話の中で出てくる、いろいろな専門用語も学ぶ目的もあります。
正直私も、はじめは介護保険でカバーできる範囲すらよくわかりませんでした。ただそうした状態のままチームに参加しても、自分の立場だけを考えた一方的な意見しか言えないじゃないですか。それでは、スムーズな連携ができないんです。そのための資格取得ですね。
この地域では、レベルの高い対応を求められていると感じます。費用のことよりも、自分や家族がどういうサービスを受けられるのか、詳しい内容に興味をお持ちの方が多いですね。
そのため私たち薬剤師も、どれだけ副作用が抑えられるか、どうしたら薬の量を減らせるかなど、患者さんの状況を見ながらご説明しています。また薬のことだけではなく、健康に関する総合的なご相談にも乗れます、と常々ご提案していますね。
基本はそうですが、中にはホームページを見て、「自分が求めていることに合っているので、退院したらお願いできますか?」と相談をいただくケースも多いですね。
そうかもしれません。そうした患者さんの場合、入院先の大学病院などから「お宅の薬局を指名している方がいるのですが、在宅でこういうレベルのことはできますか?」と問い合わせがくることもあります。場合によっては、患者さんが退院されるときに病院まで打合せにうかがい、さまざまな情報を病院薬剤師さんから詳しく引き継いでもらっています。
そうですね。これまでは病院で最期を迎える方が大半でしたが、今は違います。退院して家に戻りたいという方に対しては、病院の方でも積極的にサポートしてくれます。
ただ私たちのような地域の調剤薬局では、終末期の緩和ケアや、専門性の高い領域などに関する経験値がなかなか追いつかないのが現状です。そこで患者さんのケアが在宅に切り替わった後も、病院の薬剤部と連携し、いろいろとご指導いただいています。
そんなことはないんですけどね。もちろん基本の業務はありますが、対応する患者さんは一人ひとり全然違うわけですから。
同じ症状に同じ薬、同じ薬効であっても、体重、身長、性別、年齢……相手の情報はそれぞれですよね。基本のデータに加え、そもそもその薬を飲むことに抵抗があるとか、生活サイクルによってなかなか飲めないとか、「どんな飲まれ方をするのか」によっても全く違ってきます。
はい。例えば同じ高血圧の患者さんでも、ハードワークのストレスが原因の方と、ちょっと体質的に高血圧になりやすいという方では、将来的なリスクも全く異なりますから、アプローチ方法そのものを変える必要があります。
ただ機械的に薬を出すのではなく、コミュニケーションをきちんととったうえで対応していかなければなりません。
実は私、子育てで10年くらい専業主婦だった期間があるんです。この会社に入ったときも、最初は週3日の“パート薬剤師”でした。主婦になる前は製薬メーカーで研究開発の仕事をしていたため、調剤経験はゼロ。だからパートで仕事をはじめたときは本当に何もできなくて、かなり苦労したんです。
私は、「ずっと薬剤師の仕事に関わっていきたい」と、いつも思っていました。
その頃は正直、将来のことを見据えたり、計画的にキャリアを重ねようとは考えていなかったですね。目の前にある仕事にがむしゃらに取り組んでいるうちにスキルが身につき、結果的に社員となって、6年前に在宅に新しく取り組むこの店舗の立ち上げを任され、そのために必要なケアマネージャーの資格も取って……。
振り返れば、「患者さんの助けになりたい」という気持ちが軸になって、今のキャリアにつながったのだと思います。
自分が抱いた想いや可能性を信じて、小さなことを一つずつ。薬学部で勉強をがんばって、資格を取ることを目的にせず、そこからどうやって自分のスキルを活かすことができるかを考えるのが大切だと思います。若い薬学生のみなさんには、これから専門知識に磨きをかけて、いろいろなことにチャレンジして欲しいですね。